幻視(幻覚)や錯覚の症状と介護対応

家族でくつろいでいたら、突然、母が部屋の隅や天井に向かって「ヘビ~!蛇だ!!こっちへ来るな!!」と叫んでいます。しかし、実際には母の叫ぶ方には、ヘビなどはおらず掃除機が一台置いてあるだけです。

みなさん!このような場面に出くわしたことはありませんか?実は、これは認知症パーキンソン病、統合失調症といった病気を原因とした幻覚や錯覚症状なのかもしれませんよ。

ここでは、こういった「幻覚や錯覚といった症状がなぜ現れるのか?」「幻覚や錯覚の予防・対策法はないのか?」といった疑問やお悩みにズバリお答えしてております。是非、幻視や錯覚に対してどうしたら良いのかお悩みの介護者さまはご覧下さい。

幻覚?錯覚?その症状と違いについて学ぼう

幻覚や錯覚と聞いても、その違いがイマイチ理解出来ていない方も多いと思います。まずはその違いについて確認していきましょう。

辞書を引いてみると、幻覚と錯覚は次のように定義されています。

幻覚
目や耳、鼻といった感覚器への外的刺激が無いのに生じる知覚
錯覚(誤認)
実在の外的刺激に対する誤った知覚あるいは認知

つまり、幻覚と錯覚は、「知覚対象の有無」により区別されています。

しかし、こんな説明では難しくて意味が分からないと思いませんか?さらに噛み砕いて、幻覚と錯覚の違いを分かりやすく説明したのが以下です。

幻覚 物体や音、臭いといった五感を刺激するものがないのに、実在しないものを感じる 幻視 存在しないものが見える幻覚症状
幻聴 聞こえないものが聞こえる幻覚症状
幻臭 臭いがないのに臭うう幻覚症状
体感幻覚 触れていると感じるなど皮膚感覚に関する幻覚
錯覚(誤認) 視覚を刺激されたことで起こる見間違え 物体誤認=錯視 掃除機のホースをヘビ、シミを虫といった具合に物体を見間違える
人物誤認 人の顔を区別できず同じ顔に見える

幻視

認知症やパーキンソン病で現れる幻覚症状の多くは、存在しないものが見える「幻視」です。特に、幻視は認知症の中でもレビー小体型認知症の方に多く見られる症状です。

なんと、レビー小体型認知症の方の8割以上に現れる特徴的な症状です。また、パーキンソン病が進行していくと5割以上の方に幻視が現れるとされています。

アルツハイマー型認知症では、こうした幻視が現れるのは10%未満であり稀です(せん妄の時を除く)。

幻視で見える対象は、人それぞれ異なりますが、その多くは虫や動物、人などです。具体的には、次のようなものが現れます。

  • 虫が部屋中を飛び回っている
  • 蛇が這いずり回っている
  • ネズミがうろついている
  • 小さい子供や人が遊んでいる

幻視はリアルにハッキリと見えるのが特徴

そして、レビー小体型認知症やパーキンソン病の幻視は、次のような特徴を持っています。

  • 幻とは思えないほど、リアルに実在しているように見える
  • 動きを伴っていることも多い
  • 色彩はハッキリとしていることが多い
  • 幻視は夕方から夜にかけて増加しやすい(周囲が暗くなっていくという外的な要因のほか、視覚を含む認知機能が低下するという内的な要因が関係している)。

つまり、本人には幻覚がイキイキと動いていてリアルに実在している様に見えるのです。その為、幻覚が見えている方は、何もない場所を指さしたり、覗き込んだり、喋りかけたりします。

錯覚(誤認)は見間違い

レビー小体型認知症に見られる視覚に関係する障害は、幻視だけではありません。

錯覚(誤認)といった見間違いも特徴症状の1つです。錯覚は、レビー小体型認知症の方の5割以上に現れるとされています。

具体的には、次のような見間違いを起こします。

  • ハンガーにかけてある洋服を人間に見間違える
  • 壁紙の模様を人間の顔に見間違える
  • 床の模様が虫と見間違える
  • 水道のホースを蛇に見間違える

普通の方でも錯覚はしますが、レビー小体型認知症の方では、その頻度が非常に多くなります。

幻覚や錯覚の原因

しかし、なぜ幻視や錯覚といった症状が現れるのでしょうか?

それは、認知症やパーキンソン病といった病気により、視覚をコントロールする「後頭葉」がダメージを受けることが原因で現れると考えられています。

幻視が妄想に発展していくことも

また、幻視が発展して妄想を抱いて暴力を振るったりすることもあります。例えば、「虫を追い払おうと、殺虫剤をまいたり捕まえようとする」「ベッドに他の男が見えて、愛妻が浮気していると妄想(嫉妬妄想)し、暴力を振るう」といったことに発展するケースがあります。

妄想については『妄想とは?被害妄想の種類と対応法』、暴力については『認知症や脳卒中の方の暴力・暴言への対応』をご覧ください。

幻覚や錯覚への介護対応

しかし、認知症やパーキンソン病を発症し、幻覚や錯覚症状が現れるようになった時、何か良い予防策や対応策はあるのでしょうか?早速確認していきましょう!

幻視や錯覚を予防する部屋を作ろう

幻覚や見間違いは、家の中の生活環境が影響しているケースが大変多いです。まずは幻視や錯覚が現れやすい環境とは、どのようなものか確認していきましょう。

幻視や錯覚が現れやすい環境

錯覚や幻視が起こりやすい環境は次の通りです。

  • 陰影や暗がりが多くある
  • 洋服や人形、シミなど錯覚を起こしやすい物がある
  • 部屋と部屋の間で照度(明るさ)の違いがある
  • 蛍光灯を使っている

幻視や錯覚を防ぐ部屋作り

これら室内環境を見直し、改善することで幻視や錯覚をある程度予防することができます。是非、次の『幻視や錯覚を予防する為の部屋作りのコツ8選』を実践していただければと思います。

幻視や錯覚を予防するための部屋作りのコツ8選』

  • 蛍光灯は影を作りやすいので白熱灯に交換する
  • 同じ電球を使ったり、リモコンで照度を統一したりして部屋同士の明るさのバラツキを失くす
  • 無造作に物を置かない
  • 家具の高さをなるべく低くし、陰影の出来る場所を減らす
  • 暗闇に映える蛍光色の物や色の目立つ置き物を置かない
  • 人と間違いやすい為、壁に洋服を掛けない
  • 壁紙や床のシミや汚れを取る
  • 壁紙や床はなるべく無地に近くシンプルなものを選ぶ

幻視や錯覚が現れた時の対応

しかし、実際に「幻視や錯覚が現れた場合」は、介護者はどのように対応すれば良いのでしょうか?

その時は、次の『幻視や錯覚が現れた時の介護対応フロー』を実践して下さればと思います。

幻視や錯覚が現れた時の介護対応フロー

  1. 幻視や錯覚を訴えられた
  2. 幻視や錯覚を訴えている本人に対して、「何も見えませんよ!」「バカじゃないの?」など強く否定したり、説得したりしない
  3. まずは、本人の訴えに耳を傾け理解する姿勢を見せる
  4. 「何が見えて、どこにいるのか」聞き出す
  5. その上で、状況に合わせて以下のような言葉を投げかける「私には見えませんが・・・あそこにいるんですね?」「おまじないをして消えてもらいましょう」「悪さをしないからだ大丈夫だよ」
  6. 幻視の場合は、一緒に近づいてみたり、触れてみると消えることが多い。怖いと訴える場合は、介護者がやっつけたり、追い払ったりするような演技をしたり、一度その場を離れると幻視が消えることが多い
  7. また、暗い部屋の場合、照明を付けたり、カーテンを開けたりして部屋を明るくすることで幻視や錯覚がなくなることがある
  8. 最終的に、本人が自分だけが見えると納得したり、恐怖心が消えたら良しとする

幻視や錯覚に対しては、本人の訴えに真摯に耳を傾け対応することが何よりも大切です。否定したり無視したりすると、更なる混乱や不安を招いてしまい幻視や錯覚が悪化したり、妄想や抑うつへと発展することもありますので注意が必要です。

幻覚や妄想などに対する薬

認知症を原因とする幻覚や錯覚、妄想などに対しては、アリセプトはという認知症の薬や抑肝散という漢方薬が効果的であることが知られています。また、パーキンソン病治療薬の追加や増量で幻覚や錯覚が悪化すること場合もありますので、パーキンソン病の方で、幻視や錯覚といった症状が現れるようになってきた人は、直ぐに医師に相談しましょう。

<参考文献>

  1. 長濱康弘:レビー小体型認知症のBPSD、老年精神医学雑誌、21、858~866(2010)
  2. Rubin, E. H., et al. : The nature of psychotic symptoms in senile dementia of the Alzheimer type. J. Geriatr. Psychiatry Neurol., 1, 16-20 (1988)
  3. Hirono, N., et al. : Distinctive neurobehavioral features among neurodegenerative dementias. J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci., 11, 498-503 (1999)
  4. Stavitsky, K., et al. : The progression of cognition, psychiatric symptoms, and functional abilities in dementia with Lewy bodies and Alzheimer disease. Arch. Neurol., 63, 1450-1456 (2006)
  5. Aalten, P., et al. : Neuropsychiatric syndromes in dementia. Results from the European Alzheimer disease consortium : part 1. Dement. Geriatr. Cogn. Disord., 24, 457-463 (2007)